父が死んだ…。母からその知らせを受取った僕(ジャン)は、葬儀に参列するため、2年ぶりに家に帰った。母と言っても、僕が寄宿学校に行っている間に父が再婚したその女性とは初対面だ。父は資産家の長男だが、放蕩の限りを尽くし、結婚もこれで4回目だった。ドアを開けるとそこにははじめて見る女性、継母(ままはは)の姿があった。驚いたことに、彼女は容姿も雰囲気も僕の母に生き写しで、不謹慎だが、僕は幼い頃のように彼女の胸に飛び込んで「泣きたい」という衝動に駆られたのだった。泥酔し落馬で死んだ父の姿は哀れだった。そのとき、僕の脳裏に浮かんだのは、僕の母も継母も何でこんな男に惹かれたのだろうということだ。翌日、家の前に豪華な馬車が停まった。降りてきたのは本家の弁護士を務めるフェルナンという男だった。父の散在のせいで、既に家まで抵当に入っている僕達を、祖父が引き取る事にしたのだ。だが、その時は知らなかったが、祖父が僕達親子を引き取るにはもう一つの理由があった。本家には、僕以外男の跡取りがいない。つまり、祖父が僕を引き取るのは、本家に伝わる家訓「男児に全財産を相続させよ」というしきたりを守るという意味があったのだ。こうして僕と継母は、祖父の馬車に揺られ、本家へと向かった。